苅谷剛彦、山口二郎「格差社会と教育改革」読了
社会教育学者の苅谷剛彦氏と政治学者の山口二郎氏の対談による、格差社会についての議論をまとめた本です。
本書の主張するところを簡単にまとめると、教育とは公共性を持つものであり、ある意味押しつけである。新自由主義のもと規制緩和・自由化をしていってサービス化をするのは格差を拡大する、というところだと思います。
気になったところは概ね以下の通りです。
予算はかけずに、あれもやるべきだ、これもやるべきだと盛り込むポジティブリスト方式のやり方は止めるべきである。予算とやりたいことを両輪として考えるべき。
教育の公的性質を強調し、教育のサービス化を問題視している。とくに、新自由主義的な「選択の自由」を主張する言説は都会など恵まれた環境にいる場合には良いが、田舎に生まれた場合の不利益・効果のなさは大きい。「移動コスト」はゼロではない。
教育というのは本来時間のかかるものである。それを短期間で成功する、という仮定のもと評価するのはおかしい。
見所は、
P.14 図1「国家予算と義務教育費の伸び率」における、教育費の伸び率の悪さ、
P.20図2「PISA数学学力の変化」での、フィンランドと日本の比較における低学力層の学力低下
P.25図5の都道府県の財政力と児童一人あたりの教育費の関係の変化、これは年を経る毎に財政力がある自治体が教育にお金をかけなくなっていく(=1学級単位の人数の増加)
等のデータに基づいた議論が、議論をわかりやすく導いてくれます。
この本は、とても薄い割に議論がしっかりとしています。ちょうど安倍内閣のバウチャー制や学校選択制に対する批判が行われていた時期の話なので、今の時期に読むと少し感覚が違うかもしれません。新自由主義は国民は望んでいない、予算と人と教育理念を共に展開していくべき、という主張はすっきりしていてわかりやすいと思います。特に都会の感覚で自由化を進めていくことに対する問題提起は重要でしょう。
苅谷氏の本を読み始めるのには最適かなと思います。